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奥様メーターを上げることは誰でもできるはず――宮本茂氏基調講演(+D Games

Fri, 09 Mar 2007 19:23:59



 3月8日(米国時間)、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコで開催されているゲームクリエイター対象のカンファレンスイベント「Game Developers Conference 2007」(以下、GDC)において、任天堂の宮本茂氏の基調講演が行われた。

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 昨日行われたGame Developers Choice Awardの授賞式で、Lifetime Achievement Awardを授与された宮本茂氏は、Miiを製作する画面とシンクロし、そこから抜け出してきたという演出で登場。8年ぶりとなるGDCでの講演ということもあり、会場に集まった観衆を一気に引きつけてみせる。会場は立ち見が出るほどの賑わいをみせ、開始予定から30分以上押してのスタートとなった。

●任天堂にとってのビジョンは3つ

 今回の基調講演は、「A Creative Vision(創造的ビジョン)」と題されており、宮本氏が思うゲームデザイナーが持つビジョンと、任天堂の持つビジョンについて、3つの要素を挙げ説明するというもの。

 まず宮本氏は、自身がゲーム開発に携わった25年前に遡り当時のビデオゲームの状況を振り返り、ビデオゲームをするプレーヤーの姿は健康的だったと切り出した。自身がゲームをする写真などを見せつつ、前回の公演からここ8年で状況は変化したのだという。

 宮本氏はここ数年、取材を受ける度にゲームの内容を聞かれるのではなく、社会状況について聞かれることが増えたのだとか。「ゲームがプレーヤーをゾンビみたいに変えてしまったのではないか?」と質問される度に不安になり、ゲームが取り巻く状況は悪くなっていると気がついたと言うのだ。売上げは上がっているが、ゲームに対する評判は落ち、プレーヤーの求める方向も一緒になりつつある現状で、任天堂は岐路に立たされていた。このまま任天堂が従来から続けているビジョンのままでいくか、それとも現状に迎合してビジョンを改めるか……。そんな岐路に立った宮本氏がいかにして、今こうして自身の持つビジョンと会社のビジョンを共存してきたのか。幸運にも合致していたビジョンの下、何を大事にしてきたのかを解いた。

 それが前述した3つの要素となる。すなわち「ユーザー層の拡大」、「バランス」、「リスク」となる。

ユーザー層の拡大

 宮本氏はユーザー層拡大について、極めて身近な尺度として奥さんの存在が大きいと明かす。宮本氏はそれを「奥様メーター」と呼び、彼女の満足度でユーザー層拡大の目安とできると例を挙げていく。曰く、「テトリス」や「スーパーマリオブラザーズ」などゲームに興味がなかった奥さんが、「ゼルダの伝説 時のオカリナ」を宮本氏の娘さんがプレイしているのを後ろで眺め興味を抱き、さらに敵が登場しないと「どうぶつの森」を渡してみるとコントローラーを持つようになり、メーターがググっと上がったのだとか。

 ここで気をよくした宮本氏は、顔の形がギターのピックに似ているからと名付けた愛犬“ピック”を飼い始めたことで、奥さんが犬好きになり、さらに犬を飼っている知り合いも増えていき話題に事欠かないことを受け、ユーザー層の拡大につながると「nintendogs」開発のきっかけになったと紹介。「nintendogs」のおかげで、奥さんはまったく違った視点でゲームを捉えるようになり、「脳トレ」でゲーマーになったと報告。身近なものとしてゲームをとらえ、インタラクティブの面白さに気がついたことで、メーターはさらに上がっていったという。今では投票チャンネルをダウンロードして楽しみ、宮本氏にゲームの勝負を挑むほどになり、親戚やご近所のMiiを作るなどクリエイティブ性も発揮するようになったと驚くほどの成長を短期間で見せていると宮本氏。ユーザー層拡大の確かな根拠とした。

バランス

 任天堂はひとりでゲームを作るのではなく、何人かのチームで作るものとして、すべてのスタッフが遊び方を知るようバランスよくそろっていると宮本氏。同じビルで仕事をすることで、どこでも話せる環境でゲームを作ることができているのが強みなのだとか。

 そんな環境でも、Wiiのコントローラに関しては苦労したといくつものプロトタイプを試作した時のことを振り返る。元々、大学で工業デザインの勉強をした宮本氏は、ファミコンの頃からコントローラのデザインに携わっており、Wiiリモコンもチームで製作。製作過程において、さまざまな意見があったが、結局デザインやシステムなどバランスを取った結果、シンプルな今の形になったのだと説明する。

リスク

 任天堂前社長の山内溥氏から宮本氏は「新しいことをする際は、人と違うことをしなさい」と言われてきたが、それにはリスクが伴うことだと、Wiiを例に挙げる。リスクを覚悟してビデオゲームはどうあるべきかを考えて来たが、ゲームキューブは人口拡大と命題を果たすことはできず、中途半端な結果となり、コントローラも変えてみたがゲームをしない人には波及することはなかったと吐露する。任天堂はWiiでは、リスクを覚悟して新しいチャレンジに取り組んだからこそ、今があると解説する。

 ゲームを両手で遊ぶものとして10年以上も継続してきた慣習をふりほどくためにも、宮本氏の開発中当初の任務は、いかに社員にWiiのよさを伝道するかであったと振り返る。これにより自分自身も説得していたのだとか。

 しかしそれも、2006年5月に北米ロサンゼルスで開催されたE3でのユーザーの笑顔がすべてを払拭してくれたと明かす。

●宮本氏自身が持つビジョンとは?

 ここまでは任天堂のビジョンの説明。ここからは、ゲームは人が作るということを受け、ゲーム開発者である宮本氏が持つビジョンについて説明した。

 宮本氏は、よく「そのアイディアはどこから出たのか?」と聞かれることが多いが、ゲームを分析すればするほどゲームの本質から遠ざかるという。

 ゲームを開発するのに必要なのは、小さいことにこだりすぎてはならず、プレイする人の顔をイメージできるかどうかだという。要するに、さまざまな演出や意図はあれど、できればそれがポジティブにプレーヤーに伝わり、今までになかった体験であってもらいたいと思っているのだとか。プレーヤーにどういう印象を与えるか、どんな顔が思い描けるか。その時の顔を大事にしているので、時にはリスクを冒し納期は関係なく、「ちゃぶ台返し」をすることも厭わないと語る。

 「ゲームクリエーターは同じ間違いを犯しがちです。それは自分の作っているゲームをあまりに知りすぎているためであり、プレーヤーがゲームのことをあまり知らないということがわかっていない。極端に言えば、ゲームはプレーヤーの視点で開発したほうがいい」と自身の開発者としての基本姿勢を述べた。

 さらにいくつかの側面として宮本氏は、「コミュニケーション」をするための方策として「ゼルダの伝説」を例に挙げた。作品は見ようによっては、シングルプレイ用のアドベンチャーゲームと言う人もいるが、開発当時から宮本氏はコミュニケーションを生み出すイメージを持っていたと振り返る。

 当初社内では、目的も分からないし、謎解きも難解で、日本では到底受け入れられないものとして評価されていた。いっそのこと1本道にしてはどうかと提案を受けるほどだったがすべて却下したと宮本氏。しかし、「ゼルダの伝説」は、寝る前や通勤中に攻略方法を考え、分からないことは電話などで情報の共有を試みるだろうと目論んだ。結果、これは的中。この考えは後に、さらにコミュニケーションだけで成立するソフトを作ろうと「どうぶつの森」に活かされることになる。

 また、ゲームデザインには「優先順位」をつけたほうがいいと語る。開発者はいつも“足りない”という不満を抱く。それは「人」であり、「予算」であり、「時間」であり。プレーヤーを喜ばせようと思うほど、そういう気持ちになるという。クリエイターはとかく楽しんでもらいたいと内容を豪華にし、失望されたくないと不安を抱くものなので、自身も任天堂代表取締役社長の岩田氏にスケジュールの変更など相談をすることもあるが、「たいがいは『それは残念だね』と言われるだけ。もしかしたらそれは“頭を使え”ということかもしれない」と、足りない不満はつきまとうと言う。

 「Wii Sports」では、野球場は1つしかないし、送りバントはできないし、野手は操作できないし、3イニングしかなく、非現実的なまるでコケシのようなMiiで遊ぶことを選択した。宮本氏は、投げて打つリアリズムにすべてを注いだ結果、このプロジェクトは期間内に完成し、さらにボタンを押すこともなく誰でも遊べるという副産物まで得たと、優先順位をつけたことの効果を説明した。

 最後のポイントとして、宮本氏の持つ「ねばり」を挙げる。Wii Sportsのベースボールは、以前からあった家庭で遊ぶピッチングマシン「ウルトラボール」のビデオゲーム化であり、技術が追いつくまで何十年と待ったように、“人の顔を作る”という行為をゲームに取り入れられないかと宮本氏はかなりの年月、そのことに費やしていたと資料を公開する。

 しかし、その度に不評を買い、宮本氏の執念は次の機会を待つことになる。それがWiiである。宮本氏がWiiで顔を使ったゲームができないものかと考えていた時、ニンテンドーDSのシステムを作っていたチームが今のMiiの技術を生み出したことを知り、悔しい思いをしたと明かす。20年も頑張ったのに形にできなかったものが、こうしてひょんなことから生み出されるのは、その使い処の見方が違ったからと分析する。

 「長年、ハードの進化に合わせ“人の顔を作ること”を複雑に作り込んできたが、しかし、それはプレーヤーにとってはやる気が起きないことだった。ユーザーの数を減らすだけかもしれません。幅広い人に触れるものとして、すべての回答がこのWiiなのです。Miiは、シンプルでパーツも少ないのですが、簡単な操作しか要求しません。こうして私の執念は形になりました」(宮本氏)

 現在、宮本は新しいチャンネルを製作しているという。それは、Miiでコンテストをしたり、交換ができるというもので、世界中の人々が参加するだろうと今から楽しみにしてほしいと期待できるコメントも。その後、「スーパーマリオ ギャラクシー」のデモムービーを上映し、以前デモンストレーションしたこともある「スーパーマリオ128」の答えがここにあるとして、技術の向上についても言及した。

 最後に宮本氏は、「ゲームデザインにおけるビジョンというのは、ひとつの要素ではなくて、もっと本質的なものではないか。皆が一緒のビジョンであることはなく、それぞれのビジョンがどうやってビデオゲームの形になっていくのかが大事なのです。成功をはかる物差しのひとつともいえるが、自身のプロジェクトが社会全体に影響を与えるようになった時、ビデオゲームを怖がっている人が興味を持ってくれるかもしれない。ビデオゲームのイメージはWiiの登場で少しずつ変わろうとしています」と、ユーザー層拡大のために一緒に頑張ろうと呼びかける。

 宮本氏は、成功のヒントは「Wii Sports」に隠されていると語る。確かな成功を実感しているからこその言葉だと感じられた。事実、会場からはそのとおりとばかりに、割れんばかりのスタンディングオベーションで宮本氏を送りだしていた。そこには長年の確かな実績から得た経験則と、それを越えようとする挑戦者の魂のようなものを感じたからにほかならない。

 最後に壇上から宮本氏は、集まった開発者たちに英語で呼びかける。「僕が自分の妻にゲームを始めさせることができたのですから、あなたたちも誰かにゲームを始めてもらうことができるはずです」と。

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http://plusd.itmedia.co.jp/games/

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